10.革新的イノベーションと改善的イノベーション
この記事は、日本経済新聞社から出版している“MOT[技術経営]入門(延岡健太郎著)”を読んで、自分なりに整理し、意見を述べたものです。
イノベーションには、大きく「革新的」と「改善的」に分けられます。今までにない概念の商品が市場に投入されたりすることを革新的イノベーションと言います。逆に、既存商品の改善・改良版みたいな商品の場合は、改善的イノベーションと言います。
ある一つの企業に着目してこれを考えるとどうでしょう。既に市場に商品があるとしても、ある企業にとっては、初めての試みであれば、その企業にとって革新的イノベーションになります。すなわち、着目する視点によって革新的なのか、改善的なのかは変わってきます。
本書には、革新的イノベーションを起こそうとしても、既存の技術資源や能力が活用できないだけでなく、邪魔になる可能性がある。大きな技術革新が起こる場合、代替される古い技術に強みを持っていた企業は、スムーズに新しい技術に乗り移ることが難しい、と書かれています。
私も自動車部品の開発・設計をしていた頃もそう感じることがありました。ある製品の売上が順調の時は、この製品を拡販すべく改善的イノベーションで製品開発を実施します。外部環境に変化がなければそれでよいのですが、自動車の電動化が加速し始めると、それに対応した製品開発が必要となってきます。その開発の優先順位を上げずに、まずは自社が優位性を持っている現製品の改善・改良で売上を伸ばすことを優先してしまいました。その一方、競合他社はシェア奪還のため、水面下で電動化に対応した製品開発を実施し、将来の優位性確保の布石を着実に打っていました。電動化への製品ニーズが顕在化した後に、我が社も優先順位を上げるべく、プロジェクトチームを作り、製品開発をしましたが、既存技術を応用できない新規技術のため、開発時間に時間がかかり、先行している競合企業に追いつけない状態で、しだいにシェアを奪われる状態となりました。
いわゆる「イノベーションのジレンマ」です。
学問として習うと、「先見の目がないなー」の一言で終わってしまいますが、現実問題、非常に難しい経営判断になります。経営資源は有限です。無限であれば、あれもこれもと手を広げてやればよいです。しかし、有限の場合はそれができません。優先順位を決めてリソースを配分するしかないです。市場シェアがNo.1で利益も出ている稼ぎ頭の商品を持っていた場合、その稼ぎを延命したいと思うのは正しい判断だと思います。また、破壊的イノベーションは、既存商品を陳腐化させてしまいますので、自社の製品シェアが高ければ高いほど、カニバリゼーション(共食い)を起こしてしまいまい、既存商品のシェアを自ら落とすことになります。
ただ、それに固執しすぎると時代の変化の流れから取り残されます。どこかで既存商品に見切りをつけて、リソース配分を含めた次なるトレンドの商品開発を進めなければなりません。その経営判断の見極めが重要ですね
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